急須と金柑ジャム

令和4年1月某日

こちら東京湾越しに房総半島を望む神奈川県は三浦市。大寒も越え日差しは少し、少し僅かながら傾きを上げ始めている。とは言えまだまだ吹く風は冷たくこたえ、バウアーダウンを脱ぐには今暫くかかるだろう。それでも足元だけは軽快な気分を持ちたくデザートブーツにブラシを入れてみる。いささかの埃を落としたクラークスの、裾への収まりは美しく、冬を言い訳に寝かせておくとはなんとも勿体ないことをしていたな。

そんな時候。

小鹿田若手陶工から幾つか届いた急須を一つ、使ってみよう。この急須は益子の物故作家の品を手本に作ってもらった。私の、注文と言えない注文がしっかり形になった事が嬉しい。大きさは一合半。単身か、連れ合いと飲むのに良いサイズだ。私がこのサイズを頼んだのは冬場には熱々のお湯をまめに注いだら良いと思ったから。逆に夏場は大きく、冷めたら冷めたで却ってありがたい、沖縄の按瓶のような水注しが好ましいと思っている。この時期保湿を兼ね湯気を上げ続けるヤカンから飲み干したら注ぐ。そんな煩わしいと思える行為も冬らしく好ましい景色に思う。

ロシアでは紅茶にベリー系のジャムを添え、舐めながら飲むと聞く。彼の国の寒さはジャムを入れることによる温度の低下さえ憚られるらしい。それに倣ったわけではないけれど、今回は急須でアールグレイを出した。添えた菓子には金柑ジャムを。ジャムを舐めかじり、甘みを感じながら同じ柑橘のベルガモットフレイヴァで漱ぐ。追い柑橘フレイヴァと呼びたくなる、爽やかで多幸な瞬間がやってきた。ジャムを混ぜて飲むよりもそれぞれを楽しめ、ゆったりとした温かい時間を連れてくる。

愛着のあるもので美味しいものを食べる。ものと食が、季節それぞれの暮らしを楽しむ一助になる。冬を惜しみながら春を待ち望んだり。どうしても60/40のパーカーを着たくなったり。そんなことを考える。ただ、それで良いな。